『女の友情は紙より薄い』という言葉がある。
2.お前が言うな、お前が。
「薄い友情に性差があるとは思えないんですけどね」
「個人差ですよね。それを言ったら全ての問題が片付いてしまいますけど」
つんつん、ころころ。
皿の上の鈴カステラをフォークで転がしながら、私と朱音さんは会話していた。
お互いに顔を上げない。お互いの表情は見えていない。
ただ、互いの指先とフォーク、鈴カステラのみを注視する。
「よく考えてみれば、なんで皆は『男は―』とか『女は―』とか言うんでしょう。
『自分は―』『あなたは―』じゃ駄目なんでしょうか」
「それは、そうやって自分の責任を薄めようとしているんではないでしょうか。
一般論にすげかえることによって、発言の責任は自分に無い、という演出をすることができますから」
「所謂血液型信奉もその一つですよね」
「そうでしょうね。…羽堂さん、血液型あるんですか?」
「O型ですよ」
人間と同じ、ABO式である。
人間に輸血していいのかどうかは知らない。混血児が生まれるくらいだし、問題ないのかな。
ちょっと寿命が延びるくらいの影響はありそうだけど。
…あと三十年くらい経ったら、自分の血を注射器に詰めてカフェに来てみようか。ザ・延命テロ。
「…まぁ、とにかく。私から見れば、男の友情も薄い所は薄いと思うんですけどね」
「――私の持論なんですけど。…さっき『なんで皆は―』とか言っといて何なんですけど。
女の子って、割とどうでもいいことで真剣に『会議』する事があるじゃないですか」
例えば――新しい靴を買ったけども、靴ひもはオーソドックスに白か、ちょっとお洒落に青か。
例えば――苺もチョコもアイスもおいしいのに、苺アイスとかチョコアイスになるとちょっと微妙じゃないか。
例えば――バニラアイスは少し柔らかくなったくらいで食べるか、もう少し溶けるまで置いとくか。
例えば――ダイエットしてるから、というのは、金欠をごまかす言い訳として使えるかどうか。
「そうですね。そういうこと言い合ってる男性って、あんま見ない気がしますね」
「彼らには、それが『喧嘩』に見えたりするんじゃないかしら…と思うんですよね」
ああ、また喧嘩している。そんなどうでもいいことでぶつかり合うなんて。
全く下らない。女の友情は紙より薄い。
「ほっとけ、って感じですね」
「全くです。解らないなら口を出さないで頂きたい」
頷き合う私と朱音さん。
すっ、と顔を上げる。
初めて、目を合わせた。
お互いの表情に浮かぶ、軽い疲労の色。
目の下に翳りが見える気がするのは、気の所為じゃないだろう。
「…………」
どちらからともなく、視線をずらす。

咲良とエゲリアさんが、終わらない論議を繰り広げていた。
「…お互いがお互いに、自分は可愛くない相手は可愛い、って思い込んでるんですもん。
こういうの理屈じゃないですし、終わんないですよ…」
「…私から見るとどっちもどっちというか、双方『お前が言うなお前が』なんですけど」
ふ――…と、溜息が重なった。
そろそろ、日付も変わる頃だろうか。
会議は踊る、されど進まず。仲がいいのは結構だ。
しかし、取り敢えず何らかの結論を出してくれないと、私たちゃあ帰るに帰れない。
いつの間にか一人減り二人減り、朱音さんと私と、アホ二匹(失礼)だけが残った。
「…秋の夜長、ってこういうことを言うんでしょうか」
「絶対違う。」
褒め合いの喧嘩を聞きながら、私は遠い目をした。
女の友情は、紙より薄い。
紙より薄い友情が沢山沢山くっついて、いつの間にか鋏なんかじゃ太刀打ちできない厚さになっている。
カフェの夜は、まだまだ終わりそうになかった。