「という訳でおすそ分けです」
と、ドアを開けた瞬間。開口一番にそう言って、朱音さんはアランに小包を渡して軽やかな足取りで去っていった。
何が起こったのか分からず、素数を数秒数えて、ようやく朱音さんに声をかけようと玄関先へ出るも当然すでに姿は見えず、仕方なく主人に話をすると、5分後に小包がジンジャーティになっていた。
何が起こったのか分からない、本当に恐ろしい目にあったぜ。
「ちょっと朱音さんの所に御礼に行ってきます。アラン、ティーの味見よろしく」
「別にかまわないけど飲みきってもいいの?」
「良心と相談して決めなさい」
ぐっと親指を立てる主人に、何と言っていいのか分からず、「お、おう」とだけ返す。
それは暗に残しておけでいいのだろうか?
ティーカップを用意しながら、アランは一人悶々と考える。
「まあいっか」
結論は割りと早かった。
寒い日に飲むといい、と言われたジンジャーティー。成る程温まるなぁとカップを傾ける。
外はちらほらと雪が舞っており、初雪だーと叫ぶ水龍の有志達の雪降れ音頭が町をにぎわせている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
くいくい、と袖を引く感触。呼ばれ慣れない呼び方に少しくすぐったさを感じながら、アランは振り返る。
「お兄ちゃん、あのねっ!」
「どうした、クリス?」
息を弾ませながら話そうとする弟の頭を撫でながら、アランは尋ねる。
「あのね!ぼく、今日お外で遊んできたんだっ」
「楽しかったか?」
「うんっ!」
クリスは満面の笑みを浮かべてアランの問いに答える。
その笑顔を見ながら思う。良く考えれば弟と妹両方手に入ったと考えれば無理か。無理だな。自分をだませない。
ふるふると頭を振って、いやいやと思い直す。ついに出来た可愛い弟だ。可愛いのベクトルが違った程度で諦めてどうする。
「今日はね、荒野のつくえちゃんと遊びに行ったんだ」
「つくえ……ああ、メフィ兄のとこのあの子か。友達なのか?」
「友達?……どっちかというと嫁かな?」
そういえばカップのジンジャーティが切れていたな。継ぎ足すか。
「クリス。外は寒かったろ、一緒に飲もう」
「あ。ごめんお兄ちゃん。僕間接キスはもう済ませちゃってるからファーストじゃ」
「新しいコップを用意するから少し黙れ。な?」
「あい」
満面の笑みで答える弟に、アランは内心で深いため息をつきながら新しいティーカップを手に取った。
真新しいティーカップの中に、程よい熱さのジンジャーティが注がれていく。
「ほら、温まるぞ」
「ありがとう!」
少し大きめのティーカップを大事そうに両手で抱えて、クリスはゆっくりとカップを傾ける。
熱くないかと心配だったが、特に問題はなさそうだな。
自分のカップにジンジャーティを注ぎながら、クリスの様子を眺める。
ちびりちびりとカップを傾けながら、少しずつお茶を飲み干す姿は小動物のようだ。容姿や格好ともあいまって、庇護欲というものだろうか。その姿は、アランの心の奥の中にある何かを強く刺激してくる。
しかし、しかしだ。
「そういえば、お兄ちゃんのお嫁さんって何人いるの?
ぼく、こじゅうとしないといけないんだけど。窓枠をぴーっとしてふーってやってキィィ!ってやるの」
「そうか。その言葉を教えたのはエル姉だな?」
「………エスパー?」
「エル姉か?エル姉の影響だな?そうだと言ってくれクリス」
何故だろうか。小首をかしげるクリスの瞳の奥に見える光が、エル姉やメフィ兄を彷彿とさせるのは。
「トゥエルヴ御姉様、ぼくに色々おしえてくれるの。
楽しいこと、嬉しいこと、人のたぶらかしかた」
「良い話っぽくまとめるんじゃない」
「人のあやつりかた」
「そういう意味でもない!」
ぜぇぜぇと荒い息を吐くアランと、その様子を怪訝そうに眺めるクリス。
これが、クリスが生まれてからこちら。闇龍の年下コンビの日常であった
「とさ。めでたしめでたし」
「めでたしで片付けるなよ姉さん」
カフェのはずれに陣取り、黒い髪の男女が3名。くっちゃくっちゃとするめを齧りながら、闇色の女はそう一人ごちた。
その余りの言い草に思わず苦言を漏らす男に、女は笑って返す。
「仲良かねぇ、二人とも。仲良き事は美しいとよ……なあ?フェレス」
「あ、まって嫌な予感」
「いってらっしゃい?」
今年もよろしくお願いします!
「所で良くお出かけしてるみたいでつが実際どうなんでつか?」
「……キープ?」
「予想以上に辛辣でつ。どうもありがとうございまちた」
あさまちはきょうもへいわである。