夜のカフェの一室、二つの影が向かい合う。
一人は、青い髪をショートにまとめた女。沈鬱な顔でティ―ポットにお湯を注ぐ彼女は、もうひとつの影に向け、ぽつ、と呟く。
「……分からない……んですよ」
微かな呟きを拾ったもう一つの影、神父服に身を包んだ茶髪の男は、黙って空のティーカップを見つめる。
「分からないんです……お金は手に入ったけど…なにか、なにかを忘れてる気がして…でも、最近は…それすらも分からない……
もう……他人の求める自分も……自分が、どうしたいのかさえ……!」
女の声は続く。悲痛に、嗚咽を混じらせて。
分からない。力ないつぶやきに、神父は黙って息をつき、返す。迷い子を導くように、聖書の一節を紡ぐように。
「人は、なるようにしかなりません」
「でも、なら!」
「はは…これも、運命って奴かもしれません…ね……」
昂る感情を声に込める女に、神父は笑う。どこか、力なく。
「―――そんなの、私は…っ」
「俺だって、それは―――っ」
悲しみが、それ以上の憤りの籠った声が響いたのは、同時。
そして。
「あ、かなたさん。
やっぱり魔法少女ものにはタイトルコールのような掛け声が必須なわけですが、「(美★魔法)少女戦士カナリアン 夢と希望で悪即斬」とか「美★魔法 少女戦士カナリアン ほんとは、ちょっと恥ずかしい♪」とか、どれがいいですか? オープニングで使います。
勿論乾さんもその時はぜひ! 背後で意味ありげなカットインが入る感じにお願いしますね!」
とても陽気に告げる声の主は、冷蔵庫へ向かい、よく冷えたコーラを取り出す。
彼がそれをごくごくと飲み干し、他の者たちも集まる部屋に戻っていくのを、かなたと乾は黙って見守る。
なんだかさらっと不穏なことを言っていった友人を、黙って見送る。
黙って、うなだれて。そうして。
「どうしてこうなった!?」
「認めたくないものですね若さゆえの過ちと言う奴を!」
自棄っぽい叫びは、夜の部屋を震わせる。
二人が背を向け、逃れるように出てきた部屋で続くのは―――『美魔法 少女戦死の次の公演』について、の談話だった。
20.ちょっと待て。今、さらっと何言った。
どうも、かなたです。
最近、稼ぎはいいバイトを持ちかけられました。うん、ちょっと劇の手伝いをする、ってバイトだったのだけど。ちょっと、の終わりが見えません。
その上、前回の講演で仲間が増えました。
……どうして、こうなったのか。
もう、分からないから。
なんかよくわからない葛藤は言葉になり、喉の奥からほとばしる。
「確かに私はお金がない! なかったからバイト探してた! でもこんな、だって!
確かにいい稼ぎだけどなんか人として、というか、成人女子としての尊厳がべりべり失われてる気がするですよ!?
で、何が辛いかって! 言うんですよ緋那が!『お前がそこまで家の財政を気にしてくれていたなんて』『そんなに必死に働いてくれると思わなかった』って!
その流れで『私はお前と契約して良かった』とか言うんですよ! 立派になって、って喜ぶんですよ! おかんか!? いやおかんにあんなんで喜ばれたら私はどうしちゃらいいか分かりませんが!」
滲む涙を拭いながら言う私に、増えた仲間こと乾さんはしみじみとうなずく。
「俺も家では色々言われていますねえ…
どう見てもシワコだろうという魔法少女につっこんだら『女性のプライバシーに突っ込んじゃ駄目よ』とか言われるし。よ、ってまた口調変わってる。というか、いやプライバシーって。あんなにばればれなのにプライバシーって。これもやっぱり俺が悪いんですか?
悪いと言えば、ダージリンが。ダージリンが上演を見に来ていたので、興味があるんだなとチケットを渡したんですよ。その時に『僕はこういう女の子なものが見たいんじゃなくて、乾クンが変なミスしないか心配で…』とか言われまして。やっぱり俺が非難される流れになりました。
そういえば、神父仮面の恰好を見られて、パッチーさんとイソレナさんとがちバトルになったこともありました。いやあ……、本当に俺はこれからどうなるべきでしょうか」
二人でしみじみとよくわからない感情に身を浸しあい、ふつんふつんと湧き出るのは、何とも言えない危機感。
だって、このままじゃ、きっと…もっと止めづらくなるじゃない、というね!
「こうなれば乾さん、直談判ですよ! 第二部とかリターンズとか作られちゃわないうちに!」
「そうですね。やはり現状を打破することは大切ですからね」
「このままじゃ私、第二の必殺技が完成しそうですよ!?」
「俺も地味にコスチュームチェンジが進んでいるみたいですよ」
敵の動きは本当に早いですね。
小道具もなんか充実してるしね。
はっはっは、まったくもう、皆様凝り性なんだからv
って笑っていたら、後に引けなくなってしまう。
金になるのはいい。お子さまが喜ぶのもいい。お子さまに限らず喜ばれると、ああ、いいんじゃないかな、って思ってしまう日だって、ある。でも、だって。しかし、ねえ……?
自然と手を差し出すと、二人で握手を交わし合う。
固く、心を一つに。
もうビマホウショウジョセンシも神父仮面も嫌だ、と、はっきり言うために!
部屋に帰ったらオープニング案で盛り上がっていました。
なんか、率先して話あいに参加してるのがうちの地龍と炎龍でした。
乾さんちの闇竜さんもいました。
結果、なんか色々説得されて、第二回目は新しい味方を得るらしいとです。
「………もう、皆を魔法少女にするまで諦めない、とか前向きなバイタリティでいくべきでしょうか」
「前向きなのはいいことですね」
「乾さんもその間ずっと神父仮面ですけどいいですか」
「諦めることも時には大切かもしれませんね……」
僕達の戦いはこれからだ、みたいな気持になりました。
…いや、がちで。
私の戦い…どこに向かうんですか………?
そっと目尻を拭う。僅かに滲んだ滴は、塩っぽい味がした。