事件という物はふとしたときにやってくる。
それは、事故のように唐突に。
それは、定めのように偶然に。
そして、石に躓いて転んで死ぬぐらい身近に存在するのだ。
20.ちょっと待て。今、さらっと何言った。
「うどんさんはキツネは好きですか?」
「は?何をいきなり言い出すの?うどんってゆーな」
会話は唐突に。
それは、いつから始まっていた会話なのかは分からない。
だが、まるで降り注ぐ
空間移転装置のような唐突さで舞い降りていた。
ふむ、表現が余りに湾曲過ぎる?
なら、大勢の人に分かりやすいようにこういう表現をとろう。
主人が目を離してドリンクを作り始めた瞬間から始まっていた。
と。
っとと、僕の名前?ハハッ、よく知っていると思いますよ。
ええ、シンギと言います。
125番地のぶっちぎりの裏方で、表に出る事は中々無いですがこれでも結構もう過ごしているんです。
まあ、リヴァ姉には勝てませんが…ていうか勝つ気もないですが……
僕の御陰で125番地の財政はしっかり回っているんです。それぐらい、重要な立場なんです。
ハハッ、やはり知られてない?ハハッ……ハハハ………
取り敢えず、戻ってきたマスターがこちらを向いて説明を求めています。
見たままの状況ですというのを示す為私はそっと肩をすくめました。
「えっと……そのキツネって言うのは一体どのキツネかな?」
「全てですようどんさん」
「うーん…そうだねぇ。うどんってゆーな」
一切歪みのない受け答え。
これが、もし漫才ならばこういう新しい形態もあるんじゃないかと思ってしまうぐらい自然の受け答え。
ただ、一つ思うのは…灯駈よかったね。今日、咲良さんと太陽さんがデートでいなくて。
そう、目の前に居られるのは68番地のむら……羽堂亜理紗さん。
そう、目の前にいるのは125番地きっての天然ぶっ壊し&必死直し屋(僕の手伝いが入る場合も多い)灯駈。
灯駈と僕の年の差はほとんど無い。というか、二人とも親が同じぐらいの時期に大恋愛(?)の末に逝っちゃってほぼ「兄と姉」として育ってきたからだ。
だからまあ、直すのも手伝う。壊すのは勝手にやるので手伝えないというか、手伝いたくない。
「お揚げは大好きだよ?」
「そうなのですかうどんさん。では、掻き揚げは?」
「そうだねぇ、ぱりっとさくっとも好きだよ。うどんってゆーな」
マスターの運んできたジュースを二人でニッコリ受け取りつつ、話はまだ終わらない。
恐ろしいと思うのは、この会話。全く持って悪気無く、他意無く取り交わされている事。
「わかめはどうですか?うどんさん」
「エゲリアさんの事?うどんってゆーな」
「いえ、111番地の名称正統なエゲリアのワカメさんも美人さんだとは思いますが、うどんさんが女の子を食べちゃう人ではないと思うので」
「ははっ、そうだよねー。冗談だよ。うどんってゆーな」
「ふふ、流石の切り返しですうどんさん。では、海藻の方のワカメはどうですか?うどんさん」
「嫌いじゃないよ、少なくとも昆布よりは好きかな。うどんってゆーな」
所々色々不味そうな会話も含まれているが二人は和気藹々と話し合っている。
てか、マスターが色々諦めてつまみを作りに戻っていった。
「おねぎは?あっ、別に民間療法を聞いているわけではないですよ。うどんさん」
「昔やろうとしたなぁ咲良が…イソレナさん相手に…。うどんってゆーな」
「ふふっ、それはまた楽しそうな…今度教えてくださいうどんさん」
「うん、良いよ。まあ、ネギもしゃきしゃきして嫌いじゃないなー。うどんってゆーな」
余りに完成されすぎているというか入りずらすぎるというか…
一歩間違えればというこの状況で、口を出せる存在は居らず……
いや、アプエゲならきっと嬉々として来るんでしょうが、今日に限ってさっき話題に上がったエゲリアさんの所に本を借りに行ってしまいました。
最近、そういう学習というか勉強方面に興味が出てきたのか黙々と本を読んでいるときもあって……
まあ、この話はまた次の時として、観察を続けますか。
「ソイリュージョンを発行させて作り出した液は?どうですか?うどんさん」
「醤油だね。六十点。そーいうのはミルクで慣れてる。うどんってゆーな」
「くっ、まだまだ私も修行が足りませんね。うどんさん」
「ってか、アンタは何を目指しているんだ。うどんってゆーな」
何というか、僕が例え灯駈に化けて…通常の時はうまく化けきれる自身がある。それは、母さんの血が入っているからと言うのもあるけど…
恐らく、このやり取りは、羽堂さんとのやり取りだけはうまく行かない。
絶対にボロが出る。
つうっと流れる汗を拭きつつ観察を続ける。無論、化ける可能性なんて無いとは思うが、これも一つの勉強の為…いや、何の勉強かは分からないけど。
「ふむ、では今までの事を統括してうどんさん」
「何かな?灯駈ちゃん。うどんってゆーな」
「うどんさんは、お揚げと掻き揚げとワカメとエゲリアさんとネギとどの組み合わせなんですか?」
「いや、そこでさらっとエゲリアさん入れちゃ駄目でしょう。うどんってゆーな」
「ふむ…ばれましたね。じゃあ、エゲリアさんを抜いてどの組み合わせが好きですか?うどんさん」
「ワカメと掻き揚げのコンビは中々来る物があるねぇ、見た目的に…まあ無難にキツネとおネギかな?うどんってゆーな」
「分かりました。では、うどんさんにはキツネとお揚げを乗せるべきと」
…………
一瞬の沈黙。
そして羽堂さんが口を開く。
さて、これ以降の観察はもういつも通りだろう。
そっと目をそらすと僕はマスターの方に向かう。そろそろ、つまみも出来たころだろう。
後ろでギャーギャー聞こえる声を聞きつつ、僕は二人を見て……
「まったく、良いコンビですよねえ」
「ちょっと待て。今、さらっと何言った?てか、うーちゃんとの最高のコンビはやっぱり僕だろ」
さらっと聞こえた台詞を完全無視して取り敢えず僕は今日出るであろう修理費用も忘れるのであった。