それは、111番地に小さな炎龍が訪れて間もない頃のお話。
彼が踏み台を用意して取ろうとしていた袋を、退院ほやほやの地龍がひょいととっていたことから起こったお話。
12.○○の…イケメン!最強!天才!わああん、欠点が無いよー!
灯磨はじいっと袋を見上げる。袋、というよりは、それを担ぐポコスの肩のあたりをじいいっと見つめる。その高さと自分の視界を比べて、気落ちしたりもする。
「…なにむくれてるんだよ」
「む、むくれてないよ!」
ただ、将来なりたい人物像―――『土兄さんみたく冷静沈着な女の人に優しいクルーなわかりづらい人』の上に身長が増えたである。
などと思いつつ言い返した言葉に、土兄さんことポコスはそうか、と頷く。
言い淀む辺りが素直でわかりやすいなあ、と彼は口には出さないでおいた。
出さないでいたのだが、素直な新入りはまだなにかが気にかかるように唇を曲げている。確かに、あらん限りにむくれている。
かと思えば、不意に小さくつぶやく。その声もまた、わりとむくれていた。
「土兄さんはいつも冷静だよね…主人さん以外には」
「……そうか? 熱くなることもあるけどな」
素直なだけに一言余計な奴だよな。胸のうちで呟きつつ、灯磨の髪を撫でるポコス。
ぐしゃぐしゃと乱される髪に、灯磨はさらに唇を曲げ、再び口を開く。ただし、今度は、最初より大きく。
「土兄さんの…イケメン!最強!天才!わああん、欠点がないよー!」
悔しげに叫ばれた台詞に、ポコスは2,3度瞬き、しばしの間言葉を忘れる。
いきなり何を言いだすのだろう、こいつは。
「お前の中の俺のイメージはかなり誤ってると思うぞ…」
一呼吸の間を置いて思い出した言葉は、苦笑交じりに吐き出される。
「まず顔だが、龍は大概そういうもんだ」
「主人さんもイケメンって言ってたけど」
ああそうかそれはまぁ嬉しい。と思ってもいいはずなのに胸が躍らないのはなぜだろう。美形が困っているのが楽しいとか言っている彼女も洩れなく浮かぶからだろうか。
気を取り直すように咳払いして、彼は続ける。
「次に、別に最強でもなんでもないだろ」
ルール無視でならともかく、ドラゴンテンペストだけに限るならその称号は程遠い。
「でも、光兄さんとか光姉さんとか怒ってる笑顔の土兄さんは怖いよ…」
「だから、そういうのを最強とは言わないだろう。
それに天才も違う。お前よりものを知っていることを言うなら、それはお前より長く生きた分だよ」
淡々とつっこんでいくポコスに、灯磨は納得しかねると言わんばかりの顔をした。
「でも、土兄さんはおれの目標なんだよ!」
「はいはい。ありがとよ」
言って、なおもぐしぐしと髪をかき乱してやる。
もうーっと手を離れる弟分に、彼は少しだけ笑う。
クールなその表情がさらに灯磨の憧れを煽っていると言うことに、彼は気付かなかった。
――そんなことがあった、数日後。
背中に『雑用』と素敵なプリントのほどこされたシャツをまとい、ポコスは軽く壁にもたれかかり、なにやら机に向かう茶髪で白衣の男を見つめる。
―――イケメンで最強で天才で欠点が無いというのなら。むしろ。
胸の内で呟いた言葉が聞こえたように、白衣の男はくるりと大袈裟な動作で振り向く。ひび割れた眼鏡が、日当たり的にありえない輝きを見せた。
「HAHAHA! 私の顔になにかついているでしょうか眼と口と眼鏡がついていますが!」
「ああ、そうだな」
むしろこいつだろと悔しくなる思いは、そっと胸に秘める。
それでもわかられている気がして、とても悔しかったり、するのだけど。
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