パチン

乾いた音が居間に響き渡る。
音の発生源……頬を叩かれた男は赤くなった頬に手を当て、呆けたような表情で彼女に目を向ける。

「………うそつき」
「………………」

目を真っ赤に晴らし、そう告げる彼女の視線に耐え切れず、男はそっと視線を切る。
そんな男の様子に彼女はぐっと唇をかみ締める。

「…………そんなに」
「……………」
「………………そんなにあの女が良いの?」

搾り出すような彼女の声に、男は一言、すまない。と呟いた。
そう、と力なく頷いた彼女は、ふらり、と男に倒れこみ

ずぶぅ

湿ったような音が部屋に響いた。



シーン

カフェの中はシン、と静まり返り、誰も言葉を発しようとはしない。
先ほどまで、わいわいがやがやと賑わっていた名残はすでになく、後に残ったのは後味の悪い苦みだけであった。
彼らの視線はテーブルをどかして設置された舞台………わき腹にナイフを指され倒れたフェレス……に良く似た格好をしたアランと、倒れたアランに寄り添うように眠るトゥエルヴに向けられている。

そして、ゆっくりと幕……はないので明かりが消されていき………
最後の明かりが消えたとき、演劇は終わりを告げた。

「………あー」

明かりがつくと、何ともいえない、微妙な表情を浮かべている人多数。
面白かった。とは、思う。愛憎劇と呼ばれるジャンルではあるがストーリーもしっかりしていたし、何より役者の演技がすごかった。
まるで本当に起こった事を実際にみてしまったかのような錯覚を覚えるほどに。
というか、凄過ぎて笑えない、というのが本音だろう。

「えー、皆様、本日は我々、闇龍演技隊の初公演を見ていただきまことにありがとうございます。
 本日のお題目、『闇よりもなお暗きもの』はこれにて閉幕とさせていただきます」
「次回公演、『ショタロリなんて怖くない』を乞うご期待あれー」

主演男優とヒロインによる閉幕の挨拶。彼と彼女の一礼に合わせるようにぱらぱらと拍手が起こり、その中でも一際熱烈な握手を送る龍が一匹。
この場にいる者の中でも一際苦い表情をしている男性の隣で、彼そっくりな彼は立ち上がり、バンバンバンと叩きつけるような激しい拍手を送っていた。
その様子を見て、苦い表情をさらに苦くする彼………フェレスは、若干の憤りと、多分な諦めを含んだため息をついて椅子にもたれかかる。

「凄かよ二人とも! ぶらぼー!おお、ぶらぼー!!」
「頼む兄さん喋るな。頭が痛いんだ響く………」

いつもどおり最大音量でがなり立てる兄に苦言を言いつつ、フェレスは額と目を手で覆って天を仰ぐ。
確かに。確かに演劇のネタにするとは事前に言われていた。むしろ主演をやれヒロインは用意するとまで言われていたが謹んで遠慮した結果がこれだ。
これは、あれか? 新手の嫌がらせか?
……………………手が込みすぎてんだろうが、こら。
ぴしり、と手にしたマグカップが悲鳴を上げる。力が篭りすぎていたらしい。

「フェレスよぉ」
「………何?」
「あの二人も心配しとーとよ」

不機嫌さを隠しもせずに答えるフェレスに、メフィストはそう告げる。
視線を向けると、そこにはいつもと変わらない表情の兄が次回公演の予告をする二人を眺めていた。

「………心配してるって、何をだよ」
「さあなぁ。兄ちゃんは難しか事はわからんけん」

HAHAHAHAHAと太陽風に笑う兄に、なんだそれ。と返してフェレスは舞台を眺める。
そこには次回演目の衣装だろう執事服を身にまとい、物陰からアランを見つめるトゥエルヴと、ガタガタと震えながら周囲を見渡すアランの姿がある。
深く息を吸って、吐く。

「後で説教だな」

ため息をつきながらそう告げるフェレスに、メフィストはにかっと笑って彼の頭をガシガシと撫でた。



「で。結局なんでこんな劇になったんだ?」

にやけたり、微妙な表情だったりする千差万別の表情を浮かべるマスター達を尻目に、フェレスは同じテーブルに腰を下ろした2龍に問いかけた。

「割と現実に起こりそうな内容をぴっくあぷして一番現実っぽい内容を加味してみたんだけど」
「それ姉さんの勝手な妄想だから。大体、あのネタは僕が二股かけてるってことが前提の話だろ?」

トゥエルヴの言葉に一拍おいて、自分自身もダメージを受けながらフェレスは搾り出すように言った。

「姉さんは、僕に二人同時に粉かける甲斐性があるって本気で思ってるの?」
「まっさかー」

その問いかけにトゥエルヴはふるふると首を振っていった。ため息を付くフェレスを眺めながら、トゥエルヴはつ、と目を逸らし、

「ま。………あったらとっくに刺されてるけどねぇ♪」
「え?」

小さな声で呟いた呟くトゥエルヴを、怪訝そうな表情でフェレスが見る。

「なーんでもないわよ。さ、コーラの見放題って言うし樽覗いてくるわよ!」
「見てどーすんだよ、せめて飲めよ!」
「コーラは……美味いけんねぇ。一気飲みで勝負とよ、フェレス!」
「っておろせえええ」
「あ、お、俺もぉぉ!?」

がばっとフェレスとアランを両肩に担ぎ上げ、メフィストが今日も走り出した。
にわかに活気付くカフェの中を縦横無尽に走る兄弟たちを眺め、トゥエルヴは笑みを浮かべながら。

「ま、今日もあさまちはへいわでした。と……こらー、わたしをおいていくなー!」

そう呟いて、トゥエルヴは騒ぎの中に飛び込んでいった。






atogaki
関係各所に土下座をするべきか。キャラが壊れてたら申し訳ありません。


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