秋も終わり、時折吹く風が冬を意識させる初冬のある朝。
咲良が目覚めると、目の前に太陽の顔があった。






ぱちくりと瞬きをし、見間違いだろうかと目をごしごしとこすり。
再び視線を合わせて、ようやく私は目の前の光景が現実であると認識した。

「太陽……だよな?」
「はい、おはようからこんにちはまで、貴方の太陽でございます」
「………こんばんははないのか?」
「そこからは月の時間になりまして」
「そうか、よしわかった。ちょっと……歯ぁ食いしばれ」
「HAHAHAHAHAHAいえすまむ」

返答を聞き終えた後。アッパー気味に放った右拳は太陽の頬を打ち抜いた。
3回転半か……今日も調子はいいようだ。

「しかしまあ、ずいぶんと久しぶりなパターンだな」

むくりと起き上がり、欠伸をかみ殺す。太陽の進入経路であろう窓を見ると、大の字の人型が開いていた。
とりあえず、倒れた太陽を踵で踏み締める。

「妙に寒いと思ったらおい。なんだあれはおい」
ぐりぐりぐり
「ああ!今日も痛いほどの愛情が私を責めさいなむあ、ちょ待そこは骨の間だだだだ」

十二分に気を落ち着けた所で、私は再度太陽に尋ねた。

「で、何だってまたこんな朝っぱらから……てか朝?外真っ暗だし………」
「今は午前2時を少し過ぎたあたりかと」
「……深夜か早朝か悩む時間だなぁ」
「間を取って深朝とか」
「意味がわからない」

はぁ、と一息溜息をつく。ここ最近、忙しそうにしていて顔を合わすことが少なかったが、相変わらずのようだ。
安心したというか、なんというか。表現に悩む感情を感じながら私はそれで、と先を促した。

「こんな朝っぱらから、どうしたんだ。何かあるのか」
「ええ、咲良さん実は」

私の問いに太陽は胡散臭い笑顔でメガネをキラリと光らせ、

「ちょいとデートに行きませんか?」




ざっぱーん


冬の海は荒れると誰かが言っていたが、成るほど確かに激しい波だ。
波が激しい理由の大半は普段はおとなしい水龍の知人たちであることは意識の外に捨て置き、私はぴちゃぷちゃと波打ち際に立っていた。
ひゅぅぅぅ、と強い海風に吹かれて、海辺にたたずむ私と太陽。

「………なんというか、思いっきり心中間近なムードですなぁ」
「言うな」

隣に立つ太陽がぽつりと漏らした言葉に一言文句を伝える。

「何だ何だ暗いなぁ、折角母なる海に詣でてるんだぞもっとHAJIKEROよカッポー」
「兄ちゃん絶好調っすね」

ざぱり、と海から上が私ってきた………普段より20倍ほど覇気のあるダニがそう声をかけてきた。沖合いを眺めるとぷかぷかと浮かぶ魚たちの群れ……余りの死屍累々状況に思わず手を合わせる。
獲物だーとマスターズ漢組が嬉々として舟をこぎ、浮かんだ魚を網で捕獲していく。ああ、あれが今日の朝食になるのか。私はくるりと振り返り、昼の食事を準備しているグループを見やる。

「太陽、私たちは手伝いに回らなくて良いのか?」
「いやー、あんだけやる気満々な所邪魔しちゃ悪いんじゃないかなーと半分くらい思ってます」
「残りの半分は?」
「貴方への愛です」
「なんだそりゃ」

視線の先では大きな笑い声を上げながら鍋を振るうメフィストと、なぜか付き合わされているフェレス。そしてこれまた何故かお玉をもってあたふたと駆け回る雛姫と、それを笑いながら見ている朱音さんと真夜さんの姿があった.
……本当に、大丈夫なんだろうか。あ、フェレスが焦げた。

「さ、咲良さん。そろそろですよ」
「ん。ああ、そうだな」

差し出された太陽の手を握り返し、そのまま腕を組む。
視線の先に変化が起きたのは、その瞬間だった。
海の向こうから太陽が顔を覗かせ、光が海に降り注ぐ。そして………

「おおー」
「…………」


言葉が出ない。そんな光景だった。
オレンジ色の朝焼けが海底に散りばめられた色取り取りの水晶を照らし、照らされた水晶を光り輝かせる。
数多の水晶は各々の輝きを放ち、海岸を虹色に染め上げる。

「虹色海岸。例年ではここまで美味く輝かないのですがねぇ」
「苦労したぞ。ここまでばらけさせるのは」
「ありがとうございます。お陰で懐かしい光景を見ることができました」

太陽の声に覇気20倍ダニがごきり、と首を鳴らしてそう答える。

この海岸は水の精霊の力が集まりやすい場所であり、それらがの力を含んだ水が結晶と色取り取りの水晶となる。
先ほどまで彼ら水龍は、海底で大きく固まった水晶を砕きまわっていたのだ。

「今年は水精霊の力が強い年でしたので期待していましたが。予想以上で私感激です」
「そうだろうそうだろう」
「兄ちゃんを褒めたわけじゃ……咲良さん?」
「…………え、あ、ああ」

太陽の声で我に返る。いけない、呆けていたようだ。
私のその様子に太陽はにやり、と笑みを浮かべて

「いやぁどうやら気に入って頂けたようで太陽感激です。やっぱりあれですか、私の分身が海のかなたから現れる幻想的なシーンに胸ドキュみたいなきゃー言っちゃった言っちゃったはずかしいですよ咲良さん!」
「死んでしまえ」
「なんとひどい暴言!私のダイヤハートはもうボロボロですぞ!」

確かに凄い硬そうだな、と頷きながら、私ははぁ、とため息をつき。
そして、笑顔を向けた。

「ありがとう、太陽。凄く綺麗だった」
「……どういたしまして。早めのくりすますぷれぜんつですが、お姫様のお気に召したようで何よりです」

その言葉に太陽は虚を着かれたように目をぱちくりと瞬かせ、ふっと笑って一礼した。

「確かに早いなぁ」
「慌てん坊なんでしょう、歌にあるように」
「……ああ、慌てんぼうの、サンタクロース」
「クリスマス前にやってきた」

私たちは歌いながら、遠方で光る海の中に褌一丁で飛び込むマスター達の姿をみやる。
寒くはないのだろうか?
大丈夫でしょう、風邪を引かないはずですから
それもそうか。
そうですとも



「きぃぃ、なんて仲良さ気なんでしょう!このトゥシューズに画鋲を入れてやるわ!」
「羽堂さん、ハンカチ、ハンカチ忘れてます」

ディスティアがすっと渡したハンカチを受け取り、羽堂は再びきぃぃ、とうなり始めた。

「………羽堂さん、どうしたんだ?」

お茶を用意していたポコスの言葉に、カップを傾けていた火乃香がふぅ、とため息をつき。

「昨晩遅くまで何か夢中になって読んでいたようだけど」
「OK把握した」


特に考えることでもないとの考えに至ったポコスはその光景を忘れることに決め込んだ。
あさまちはきょうもへいわである


back